必死の思いが実ったのか、何とか就職が決まった。
とにかく朝から晩まで働いた。
上司の機嫌に付き合い、得意先に頭を下げ、たまの休日は死んだように眠った。
これが社会、これが会社。
そう思った。だから泣き事は言わない。自分自身にツッパリ続ける遼一は、まだ若かった。
両親はこんな思いをして自分を育ててくれたのか。
そう思うと涙が出た。
四度目の転勤先で、運命的な出会いをした。
三十四歳の春だった。
遼一は、初めて本気で恋をした。
相手は同じ勤務先の事務員で、社内でも評判の美人だった。
遼一より十歳も年下だった。
これまでの人生、女と本気で交際した事がなかった遼一は、自分の思いに戸惑った。
しかし、自分の気持ちを相手に正直に、誠実に話した。
相手は、何と遼一を認めてくれ交際する事になった。
二人は1ヶ月後には入籍した。
遼一にとって最高の日々だった。
しかし、蜜月は長くは続かなかった。
3年後、過労とストレスで、遼一が倒れた。
妻の献身的な介護もあって、1ヶ月後には退院できた。
しかし会社の態度は冷たかった。リストラ対象に挙げられたのだ。
こう不景気だと人件費は、真っ先に削減される。
十五年間も会社の為に働いて来たのに、1ヶ月でこれかよ…。
妻と相談し2ヶ月後に退職した。
会社に未練などない。
ただ、妻と子供を守るためすぐにでも仕事を見つけなければ…。