結局、美穂はハローワークに行く度に声をかけて来る桃子と数回喫茶店に行くハメになっていた。
今日もそのパターンだろうな…。
「全然、収穫なしよ…。」
ため息混じりに美穂は言って、改めて桃子を見る。
今日は一段と色気がある。ハローワークにいた男達の視線を独占していた。
…ったく乳デカ過ぎだよ。ちょっとは隠せっての…。仕事じゃなくて、男探してるんじゃない?
美穂は心の中で思いながら出口に向かった。
出入口に男が一人立っていた。
この建物は出入口が一つしかない。しかも狭い。裏口は職員専用だ。
男は恨めしそうに空を睨んでいた。
つられて美穂も空を見上げる。今にも雨が降りそうだった。
男は小柄だった。美穂と変わらないくらいだが、その背中には妙な迫力というか、オーラを感じた。
美穂は一瞬、その男に見とれてしまった。
立ち止まった美穂に桃子が追いつく。
「ねぇ火を貸してくれない?」
桃子が美穂の肩越しに男に声をかける。
美穂はあきれた。いつもは私に借りるくせに…。
あぁ、また劣等感を感じるのか…。美穂は覚悟した。桃子といると、いつもそうだ。
この、女として産まれた事に遺憾なく才能を発揮している桃子は目の前の男も虜にするだろう。
また私は引き立て役…。
男が振り返る。
石川遼一だった。