諷哉は、ばたっと後ろに倒れた。傷から血が溢れ出す。麗はそこに激しく噛み付いた…。
諷哉は痛みが我慢できずに呻く。何度か噛み付き麗はやっと正気を取り戻した…。
麗は血塗れた顔で諷哉を見る。諷哉は傷口を抑え、麗を見つめる。
「う……るは…?」
諷哉が呟いたその時。パチパチと手を叩く音と共に一人の男性が現れた。
「いやぁ…すげぇすげぇ…こいつが心鬼の最大の秘密かい…。」
(最大の…秘密……?)
諷哉は呆気にとられて、男に視線を送る。麗はスッと立ち、男の方に向き直る。
「…何で私が心鬼だとわかった…?」
麗の言葉を聞き、男はクククッと笑いながら答えた。
「…俺も…500年前の人間だからだ…。俺は、吉柳慎介(きりゅうしんすけ)。お前と同じだよ…俺も片っ端から斬る。」
麗は口の周りについた血を拭い、答えた。
「…おまえ…まさか…私達心鬼とは離れてただ人の生き血をすする者である……ギザ、とか言う奴の所属か?」
男は手を広げながら『おおっと』と言い、付け加えた。
「ご存知だったとはね…心鬼の生き残り、麗…」
「ギザ?」
首を傾げながら諷哉は呟く。それが聞こえてたかのように、麗が説明する。
「ギザ…心鬼と違って邪心のみを斬るのではなく、罪のない者まで斬る…。そして、死ぬ直前に斬った者の生き血を啜る…。」
諷哉はそれを聞いて恐怖に身をゾクッと震わせた。
「麗とやら…お前も同じだよ…俺と同じ…殺人鬼…。」
「違う!」
諷哉がほぼ反射的に叫んだ。
「同じじゃねぇよ…。麗は反省する気ねぇ奴を成敗する…けど!…っ!」
と言いかけて、諷哉はバタッと倒れた。男は諷哉を見下ろし、呟くように聞いた。
「おいおい…貧血で倒れたぞ…こんなになるまで喰うかね……それとも…そんなに美味かったか…この人間の血肉は…。」
麗は表情一つ変えないで男をじっと見た。
男は麗に向かい、暗示をかけるように目を見開く。その瞬間、麗は一つだけ呻き倒れた。男は麗を担ぎ、諷哉を残し立ち去る。
薄れる意識の中、諷哉はそれを見て自分に言い聞かせる。
(何やってんだ…!久野諷哉…!麗が…麗が、連れていかれんだぞ…?俺の…大事な……。)
唱えるように諷哉は心の中で呟き気を失う。