度々「能ある鷹は爪を隠す」と耳にはするが、能ある猫なんかも爪を隠すらしい。吾輩も出来れば、そんな格好いい爪隠しをやってみたい。しかし吾輩にはもともとそんな能ある爪などないので、結局は「能ある振りして、ない爪隠す」の方を選ばざる負えない。
さらに現実は厳しく、こんな吾輩のない爪を隠してみたところで、さほど人々の注意も集まらない。
仕方がないので吾輩からすれば、わざわざ人の視界に映る場所へ出向いては、顔を洗う素振りなどで、ない爪隠したこの手をアピールする。しかしたいていは「かわいい」と言って抱き上げられるか、「チェ」っと横っ腹を蹴られては隅っこに追いやられるのがやっとで、本に目が点になる暇もない。つまり「これって一体……」といったナレーションなども入る隙も全くない。
さて吾輩の奮闘努力の悲しみは置いといて、こんな吾輩でも能ある鷹と言うか能ある猫とやらの識別判別に関しては、危険察知に長けた猫なる性のゆえ、ちょっとばかし自信がある。
例えば猫の危険察知能力とは、道端における野良猫と見知らぬ人との距離具合でわかる。吾輩どもはいざという時の瞬発力発揮のためか、普段は余計なエネルギーを極力避けるよう、出来る限りの暢気さが義務づけられている。そしてその見知らぬ人が近づこうとする際のあのギリギリの距離まで保つあの丸い体、そう、危険領域に入ったら直ちに逃げれるように上手に丸めた体と危険が遠のく可能性を見つめた瞬発力節約の計算、そこに猫の危険察知能力の高さが認められるのである。
当然隠れた爪の危険性についても然りである。
なので「能ある猫は隠れた爪を覗く」とか言う、そんな類の諺が万が一できたならば、鷹のような賢さには遠く及ばぬが、賢さの目利き役としてこの吾輩の鼻も少しは高くなるかも知れない。 そして鼻が高くなれば狐や狸さんの顔にも当然似てくるので、麺類なんかのネーミング参加権も同時に獲得出来そうだ。
気が早いかも知れないが、うどんとそばは、もう狐さんと狸さんに奪われてしまっているので、吾輩としてはラーメンあたりを狙っている。ふと夢が広がったついでに、具は何にしたらよいもんかと考えようとも思ったが、それより「猫ラーメン」というネーミングの方が何だか気になり始めた。
……どうやら余計なことは考えず、吾輩どもは宅配業に専念した方がよい。