「・・・変装か?」
「フッ‥私は、憂牙というコソ泥と違って、変装は得意ではありませんよ‥」
そう言って、両目の中にあった赤いカラーコンタクトを外し、左の頬をぬぐった。
ファンデーションか何かで隠していたのか、左目のまぶたの上から口の横まで、一本の傷跡があった。その傷を隠すつもりなのか、銀ぶちの細いフレームのメガネをかけた。
クロムは横に立つ男の顔を見た。
傷や瞳の色、身長は違うが、とても似ている顔に言葉を失っていた。
「このマントの男、あなたを狙っているように見えましたが‥」
息絶えたマントの男の前にしゃがみ、かぶっていたマントをめくり上げた。
「・・・・!」
マントの男の腕には、なにやら紋章らしき刻印があった。
「これは‥エレミヤ国の紋章!‥自国の王子の命を狙ったのか‥!」
「‥あなたは、エレミヤ国の依頼と言いましたね‥」
クロムは腰にある剣を抜き、しゃがんでいる男に斬りかかった。
「なら!私の敵です!!」
男はクロムの攻撃をフワリと避け、コートの中から銃を取り出し、クロムにかまえた。
「‥国とか、任務とか、最初から、私には関係ないんでね‥あなたに死んでもらっても構いませんよ!」
パァーン!!
さっきとは違う乾いた音が、高く響き渡る。
男の足元に銃弾の後と、砂埃が立ちこむ。見上げると赤茶けた鉄骨の上に黒い人影があった。
「憂牙!!」
「‥そいつに手を出すな」
男は憂牙を見ると、顔を下に向け、肩を震わせ笑った。
「‥フッ‥フフッ‥会いたかった‥会いたかったよ!憂牙!!」
そう叫ぶと、憂牙にむけ一発撃った。
弾は憂牙のかぶっていたキャスケットをつらぬいた。
憂牙は避けるように鉄骨の上から飛び降り、クロムの前に立った。
「お前がレメクか‥そうかお前が‥予想以上に早くここにたどり着いたな」
「私の本名を知ってるとは‥私の情報は10年前、国家の裏警察に入る際に、全部抹消したはず。やはり、あの女と通じているのか‥」
生ぬるい風が三人の前を通りすぎる。
つづく