箱舟

 2009-03-29投稿
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(……眠れない………。)深川はベッドに俯せていた。時計を見る。(もうこんな時間か…。)時計は早朝の5時を示していた。(一睡も出来なかったな。)昨日の夜からずっと高校の宿題をしていた。それをしている内 に飽きてきて音楽を聴いていた。もう計算も暗記もうんざりだ。見るだけで吐き気がする。そう思い、クラシックを聴いていた。こんな物を聴いていれば眠れるだろう。だが、深川は眠れなかった。(その原因というのも……。)と、考えている間にまた耳障りな羽音が聞こえた。(…またか……)そう思い、音のする方向へ視線を向けた。蟲だ。宿題をしている最中も、音楽を聴いている時も、この蟲の羽音が耳から離れない。まるでたちの悪い耳鳴りだ。(もうこんな時間だし、気晴らしに軽くジョギングでも行くか。)もっとも深川がジョギングに行く最大の理由はこの蟲から離れるためなのだが。
ジャージに着替え、外に出る。微妙に肌寒い。(早く走って体を温めるか。)軽く走り出す。息が白い。もう5分は走っている。だが、まだ深川は不快だった。もう結構走って体は暖まっているというのに。何故なら、まだ聞こえているからだ。あの欝陶しい蟲の音が。ペースを上げる。だが聞こえる。もっとペースを上げてみた。まだ聞こえる。気がつけば、真っ直ぐな道を全力疾走していた。途端にスタミナが底をつく。(もう…走りれねぇ……!)セメントで造られた道に仰向けになって倒れる。見る限りは周りに誰もいない。太陽が昇る。深川はその景色を上下逆で見ている。息が荒い。「…畜生…!」呟く。まだ蟲の音が聞こえる。いい加減腹が立ってきた。(こんなのが無かったら宿題も順調だってのに!)深川は諦めた。(……昼になったら精神科に行ってみよう。きっとノイローゼか何かの一種だろ。)走ってきた道をもどろうとする。その瞬間−ゴツッ…!−と何か嫌な音がした。(…今度は何だ?)深川は呆れた様に振り返った。何も無い。(こりゃ重傷だな…)帰ろうとするとまたゴツッと鈍い音。(!!)今度のははっきりと聞こえた。(…いってみるか。)廃れた路地裏だ。いつもだったら入ろうともしないだろう。いつの間にか蟲の音は消えていた。路地裏の中を覗く。瞬間。覗いた事を後悔した。がっちりとした身体つきの男が、大きな石を使い、人間に向かって殴りつけていた。

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