500文字『カラスの死に場所』
    カラスは通常、人前では死なないそうである。
  そういえば、鳥の死骸といえば鳩や雀が殆どで、メジロのでさえ見る事もあるのに、カラスは記憶に薄い。
  実のところカラスには【カラスの森】というのがあって、そこが住家であり、死に場所でもあるそうだ。そこにはカラスの死骸が沢山あると聞いた事がある。
  感じ入るのはつまりカラスの品位で、人前で醜態をさらさざるべしという心意気に、獣ながら敬意の持てるところがある。
  カラスには小石やみかんやフンを電線から落とされた過去の伏線があり、それ以後私は空気銃を持つようになった。すると途端にピタリと悪因縁が治まったという経緯がある。
 素行からしてお世辞にも神の使いとは程遠い害鳥ながら、やはり何らかの霊力を持っていると思われる。
  
  さて早くもフィナーレといこう。
  カブで外回りの仕事の最中、私は道路脇のドブさらいでかき集めたゴミの山の中に壊れた黒い傘を見つけた。
  よく見るとそれはカラスであった。
         
    ― カラスの死に場所  終。