桃子はだんだん腹が立ってきた。
なぜ、この男は私の胸を見ない?
なぜ、この男は私のお尻を見ない?
そんな自分の思考すら見透かされているようだ。
何とか興味を持たせたい。
特にイケメンでもないし、タイプでもない。オッサンだし。
ただし、私に興味を持たないのは許せない。
全ての男は私の魅力の虜にならなくてはいけないのだ。
何とかしなくては…。
プライドが許せない。
「ねぇ、ギャラクシーラリーって知ってるぅ?」
とにかく、色んな話題をふって相手の気に入る女として振る舞うのだ。
そして、捨ててやるのだ。
「何それ?」遼一が初めて桃子の話題に興味を持ってきた。
「何か、車のレースらしいよ。賞金三億だって」
桃子はもったいぶって言った。
本当は大して内容は知らない。前に、取り巻きの男の子達が騒いでいたのを覚えていただけだ。
「素人が参加出来るの?この不景気にすごい額ね」
美穂は、何だかいつもと違う。声で分かる。桃子は思った。
この冴えない中年に一目惚れしたの?いるのよね、ダメな男にばかり惚れる女って…。
「このサイトで受付やってるよ」桃子は携帯の画面を見せた。
渡された携帯電話を遼一は見ていた。
意外と真剣な眼差し。そして、時々、ゾッとする程鋭い光が眼に宿る。
桃子にも何となく美穂の気持ちがわかってきた。
「ねぇ、私達でレースに出てみない?」
自分でも意外な言葉が、桃子の口から出た。