美穂と遼一は目を見合わせた。
「駄目だよ…」遼一がゆっくり言った。
「なんでぇ?」
よし、話しに乗ってきたわね…。そう思いながら桃子は言った。
「危険だからだ」遼一は即答した。
「でも一応ちゃんとしたレースなんでしょう?まぁ事故ったら危ないけど」
美穂が口を挟む。
「いや、そうじゃない。賞金が高すぎる」と遼一。
「高いならいいじゃなぁい」桃子が言う。もう立ち直ったのか、くねくねしている。
「賞金三億が目当ての連中が集まるんだ。何をされてもおかしくない。大会は自己責任だ」
遼一を見て美穂は思う。いつの間に大会規約まで読んだんだろう?さっきの、あの短時間で…。カッコいいなぁ。
「スタートした直後に乱闘が起きるだろう」遼一は断言した。
「いくらなんでも、それはないんじゃなぁい?」桃子が反発する。
「確かにこの国は平和で豊かだ。だけどね、楽園ではない。現に俺たちは失業している。見えない所じゃ差別や偏見、暴力が確実に存在する」
美穂はドキッとした。自分もセクハラを受けた。女性差別だ。
「でも、そんな事ばっか言ってたらチャンスを逃す一方だわ。チャレンジ精神って大事でしょ」桃子が珍しく歯切れ良く言った。
桃子の意見も正しいと美穂は思った。