13階。部屋に入ると六人目の人審士が彼を出迎えた。
「ようこそ、僕のステージへ。」
「……。」
彼にはその言葉に対してどう答えていいのかまだ分からなかったため沈黙という選択肢しか残されていなかった。
人審士は無言で自分を凝視する彼を見てやれやれといった感じで首を横に振って言った。
「暗い、暗いよ。もっと盛り上げていこうよ。もっとギャラリーを沸かせようよ。」
人審士の言った言葉に彼は疑問を抱いた。
「ギャラリーとはなんだ。」
人審士は小さく笑って質問に答える。
「僕らの闘いは観られているんだよ。そう、僕らの闘いは客を喜ばすためのショーなんだ。」
「誰が私たちの闘いを観ているんだ。そいつらは何故そんなことを私たちにさせる。」
深く思考するよりも早く次の質問をしていた。当初から疑問に思っていたことの答えがあと少しで解るのだ。彼は少し平常を保てないでいた。
「観戦しているのは人間って奴らだよ。理由は人間を大きく超えた力をもつ僕らの闘いを単純に楽しむのと僕らの闘いの勝敗に賭けたりとかかな。」
彼の中で真相に迫る喜びによる興奮ではなく怒りという興奮が徐々に割合を高めていく。
「人間は何の権限をもってそんなことを私たちに強いるんだ。」
人審士が少し残念そうに答える。
「人間は僕らを作った。いわば僕らにとって人間は神と同格なんだ。人間がそのために作ったのなら闘いは僕らの運命そのものだろうね。」
怒りが徐々に下がり虚無感が彼の体を通り抜けた。思考が鈍り呆然と立ち尽くす。その様を見ながら人審士が話しを続ける。
「いくら考えたところで戦闘から逃げることは出来ないよ。今までだってそうだ。僕はこの部屋で挑戦者を待ち幾度となく倒してきた。君はまだいい。最上階へ行くという生きるための目的がある。でも僕にはそれがないんだ。僕の世界はこの部屋だけ。目的無くして生きるは既に亡きも同じだ。だから僕は客を喜ばせるためのグラディエイターを演じることにした。だから、さぁ。僕に演じさせてくれよ自我を持つ挑戦者。」
大体の事情を理解し人審士の希望に応じて彼は武器を構え臨戦態勢に入った。人審士が天井向けて放った大口径の銃器による爆音を合図に両者が駆け出した。周りの景色がスローになり様々な思いが彼の身体をよぎる。彼に少しだけ「悲しみ」という感情が芽生えた瞬間だった。