【残された時間〜俺の決心】
まりもと付き合ってから3回目の夏の夜
俺は突然の胸の苦しさに襲われて気が遠くなりそうだった
嫁とガキは県外の実家に帰っていたから俺は自力で救急車を呼んだ
消防署の次に電話したのは嫁でもなく親でもなくまりもだつた
まりもに電話してすぐに
救急車が到着して病院に運ばれた
幸い一命を取り留めたが
俺の心臓は半分壊死しているので 次の発作が起これば命の保証はできないから発作を起こさないような
生活環境で暮らすようにと医師から宣告された
医師の宣告を聞かずとも
俺の気持ちはすでに固まっていた
俺に残されたわずかな時間をまりものために使おう
俺の頭の中には まりもしかいなかった
嫁とガキが俺の前に姿を見せたのは 俺が救急車を呼んでから16時間も後の事だった
「知らせを聞いたのが夜中だったから 来るのが遅くなってごめんね〜」と必死の言い訳をしている嫁の顔なんか見たくもなかった
いくら遠方の実家にいるとは言っても タクシー飛ばせば3時間で来れるし タクシー代払えないほど生活に困っているわけでもないし 夜が空けて始発電車に乗れば10時すぎには到着する
なのに嫁とガキが到着したのは 正午過ぎてからだった
それなのに ここぞとばかりに夫を気遣う妻のパフォーマンスをする嫁の為なんかに俺の残り少ないわずかな時間を使いたくなかったんだ
誰に会うかわからないから病院に行けない…
でも心配で居てもたってもいられなかったまりもは
処置が終わって落ち着いた頃と明け方の2回 ナースステーションに電話をかけて病状を尋ねてくれた
一晩中寝ずに俺の事を心配してくれたまりものために残りの時間を使いたかった
12歳にもなって 父親の心配する言葉よりも 最新ゲームソフトと旅行のおねだりしか言わない子供
そんな子供に注意できないくせに 良妻パフォーマンスに精を出す嫁
こんな家族なんかに残りの時間使うのはもったいないとまで思った