「自分の殻に閉じこもってばかりじゃ、良い事なんて起きないわよ。そういう人に限って、何か良い事ないかなぁ〜とかよく言うのよねぇ。傷付く事、怖がって何もやらないクセに」
美穂は耳が痛かった。まさにそれは自分の姿だ。遼一もそうだろうか…。
「俺は何事にも、最悪の場合を想定して行動する。そうならないように、選択し、それが一番堅実だと思っていたから」
遼一は桃子を見て言う。
「今を生きる!とか言いながら、次の日に死ぬのはバカだと思っている。明日を夢見て、今を頑張るんだ。それが俺の生き方」
私と同じだ…。美穂は思う。
「でもね、たまにどうでもいいやって思う時がある。つっぱるのはもう疲れたってね。そういう時バカバカしい事をしたくなる。普段は絶対やらない事をね」
私が桃子にライターを貸した時みたいな気まぐれみたいなものかな…。美穂は桃子を見て思う。
「今、ちょうどそんな気分だ…。君達とお茶してるのが、その証拠。そのキャノンボールみたいなレースに出てもいいかな」
「キャノンボール?」桃子は首を傾げる。
美穂も分からなかった。
「あぁ、ごめん。君達の世代じゃ知らないよね。うわぁジェネレーションギャップ感じるなぁ」遼一は天井を見る。
「昔のアメリカ映画だったと思うけど、確か公道レースをやるんだ。それがね、もうキャストがすごいの。当時のスターが集まって…シナトラも出てたかなぁ」
「シナトラ?誰それ。スターだったの?」桃子が聞いた。
「あぁ、分かんないか…。ジャッキー・チェンとか分かる?彼も出てた」
「あ、ジャッキーなら知ってます。酔拳とか蛇拳とか観ました」美穂が弾んだ声で言う。
遼一は大笑いした。思っていたより古い映画が若い娘の口から出てきたからだ。
自分に分からない話題で盛り上がる二人を見て、桃子は腹立たしかった。
「もう出場登録したわよ」
桃子がタバコの煙を吐いて言った。