夢猫

慰吹 漣  2009-04-02投稿
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―春の豪雨は
なま暖かいだけで、
決して何も洗い流してはくれない。

ぼんやり思考を巡らせ僕は思う。

大きくも小さくもない街の、
駅前の繁華街。
時計は深夜二時を回った


遠くの雷鳴が耳を掠めた。

―自宅に事務所を構える父親と、主婦兼フラワーアレンジメント講師の母親。
二人が仲違いするようになったのはいつの頃からだろうか―\r
きっと妹を流産し、従業員が夜逃げし、飲酒トラックが事務所に突っ込む惨事が立て続けに起こった三年前、あの時からすでに歯車が正確に時を刻まなくなっていたのかもしれない。
今日みたいに派手に喧嘩をし、その両親の抗争を避ける
僕が真夜中に繁華街をうろつかなければならなくなったのはこの一年ほどのはなしだが…

こんなとき僕は、
iPodでお気に入りの雨の曲を流し
街中の喧騒を遮る。
気分は視界を彩る鮮やかなネオンだけでも十分なくらいだ。
そして漆黒のコートで傘も黒。

僕は劇が好きだ。
役者を演じることも。

だから、
そんなときはいつも、なんだか猫にでもなった気分になる。
自分は黒猫―\r
夜の街を誰にも邪魔されず、
颯爽と徘徊する黒い影。
うん、
黒猫の役者悪くはないな。


僕は黒猫のままで
街外れまで辿り着くと、
雨脚が強くなり
首をきょとんと上げると
そこにあった廃墟ビルからは
雨粒の滝、
そして街灯が照らしだし成す
芸術に、暫く目を奪われた。
もちろん、猫のように瞳を開いて。


ふいに道路側を、
鮮血のような光が走っていき
我に返る―救急車だった。

今何かを感じたのは、あれだったのか、、、

いや違う。

再び廃墟ビルに目をやり、
目線を真下におろすと
黒い塊がいた―\r

黒猫だ。
僕と同じ、毅然とした態度で眼を上げる。
気配の正体はこいつだった。

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