「……おやおや、女性をいじめるとはいけない方ですね、『ダ・カーポ』さん?」
目の前を漆黒が覆っていた。その猫背の、だけど広い背には見覚えがある。
「アーガス、さん……?」
そっと呼ぶと、振り返ったアーガスがへらっと笑った。「大丈夫ですか、ウー?」
「な……お前……!!?」
「ダメですよぉ、女性には優しくしないと、ね? あなたモテないでしょう、『ダ・カーポ』さん」
愕然としているダ・カーポに対し、アーガスは相変わらずしまりがない顔で笑っている。
一方、目を閉じてしまっていたウーは何が何だかよくわからない。
今の一瞬で一体、何が起こったのだろうか。
あの大きな火球はどこへ?
アーガスは何をしたのか?
「このっ……!!」
ダ・カーポの目が怒りで燃えた。
彼の手の中で、再び一気に火炎が燃え上がる。
「たまたま俺の術を止めたからっていい気になってんじゃねぇぞ!! 次はねぇ! お前ら焼き払ってやる!!」
それが合図だったのだろうか。
ダ・カーポの部下らしい男たちもまた詠唱を始めていた。
王宮騎士団魔術連、中でもあのダ・カーポが率いている精鋭たちである。
ウーはもう恐ろしさで動けなかった。