お互いの連絡先などを赤外線で交換した後、三人の失業者は解散した。
一目惚れなんて本当にあるものなのね…。ドラマか歌の世界だけかと思ってた。美穂は足取りが軽かった。
恋愛なんてアタシとは無縁で、テレビや映画の中で語られる物語やラブソンクはどこか現実ばなれしていると美穂は常々感じていた。
今日、もし遼一に天気の話をしなかったら、友達にはなれなかっただろう。
桃子への対抗意識はあったものの、自分から男性に声をかけるなんて…。
彼氏いない歴27年のキャリアを誇る美穂には、神のいたずらか、悪魔の後押しかとしか思えない。
もし天気が悪くなければあり得ない事だった。
その前に桃子に貸したライター…。自分が社会性を保つ為の儀式を続けた事が、きっかけとなったのが嬉しかった。
人を好きになるって素敵。
長年の呪縛から解かれたように美穂の心も体も軽かった。憑き物が落ちたみたいだ。
遼一は妻子持ち。しかも愛妻家みたいだ。
それでも構わない。相手に迷惑はかけない。ただ、想うだけなら、いいでしょう?
遼一さんは、特にイケメンという訳ではないし、歳も離れてる。
だけど、こんな気持ちになったのは初めて。
運命の人に会ったのか…。
アタシと同い年の奥さんとどんな出逢いをして、どんな声で話すのだろう…。
初めて自分は嫉妬してるのかも知れない。
でも、マイナスのベクトルの感情でも、今までの無関心よりはマシに思う。
愛情の反対は憎悪ではなく、無関心だ。
もし、勇気を出さなかったら、また無機質な部屋に帰り膝を抱えて自己嫌悪にさいなまれながら、つまらないテレビを観て寝るだけの毎日が続いただろう。
美穂の人生は色を変えた。
もっと遼一に私を見て欲しい。あの真っ直ぐな視線で、冴えない所もダサい所も全て…。
あの人になら見られても構わない。
何故か本気で、そう思った。
とにかく今は、少しでもきれいになりたい。オシャレにも頑張ろう。
無駄な努力でも構わない。
神野美穂は決意した。
人はちょっとしたきっかけで変わるのだ。