小さい頃ね
ホントに小さい頃
悪戯して
ばあちゃんに怒られて
ばあちゃんに謝れなくて
置き手紙をして
家出したんだ
手紙には
こう書いた
『たびにでます。ばぁちゃんせわになった。』
玄関をでたものの…
どこへ旅にでればいいのか?
ただただ、
小さなリュックいっぱいに詰め込んだ
大事なおもちゃたちが
ずしりと重くて…
庭先の石の上に
下を向いて座ってた
いつの間にか
辺りは夕焼けに染まり
余計に寂しい気持ちになる
『どうした?』
仕事から帰ってきた
父が声をかけてくる。
今にも
泣き出しそうな私に
父は優しく微笑んだ。
『ほら。家、入るぞ。』
旅に出るつもりが
ほんのわずかで
帰ってきてしまった
恥ずかしさに
下を向いていた私を…
『おかえり。』
と…
ばあちゃんは優しく抱きしめてくれた。
先日…
その時の手紙をまだ大事に持っている…と、ばあちゃんが言った。
そんなもん、まだ持ってるの!?と言ったら、
『この手紙は…ばあちゃんの宝物だから。』
と…
しわしわの顔のばあちゃんが、しわしわの指で文字をなぞりながら…懐かしそうに読み返した。
『たびにでます。ばぁちゃんせわになった。』
20年以上前に何気なく書いた紙っぺら1枚…。
…あなたには、宝物がありますか?