「アンタねぇ、10才も上じゃない!いや、歳は関係ない。その人結婚してるって!?不倫じゃない!そんなの私が許さないから。妹をもて遊ぶなんて許せない」涼子は興奮して言った。
「お姉ちゃん、ちょっと待って。遼一さん、そんな人じゃないから。落ち着いて、お願い」美穂は困った顔で言う。
「私は落ち着いています」
涼子が厳しい声で話す。
「なんて言うか、好きっていうより、憧れ?みたいなものなの。ほら、お姉ちゃんだって、アイドルのタクヤとか好きでしょ?それが、たまたまテレビの人より身近にいただけなの。私は冷静よ」美穂は微笑んだ。
「美穂…。アンタ、全然分かってないわ。不倫なんて最初は皆、そう思うのよ。そして、抜けられなくなるの。アイドルへの憧れと同じなら、もう会わないでも平気でしょ?恋をするのは構わないけど、不倫はダメよ。まさか、会う約束でもしてるの?」
美穂は黙って、うつむいて言った。
「今度、車のレースに一緒に参加する事になった」
「はぁ?レース?何それ、意味わかんない」涼子が、あきれて言う。
美穂は顔を上げて、真っ直ぐに涼子の目を見て言った。
「お姉ちゃんの心配は分かる。ありがとう。でも大丈夫。私だってバカじゃない。相手を困らせたり、自分自身が不幸になるような行動はしない。約束する。でも、これはチャンスなの。私が変わる一つのキッカケにすぎないの」
涼子の前にいるのは、子供の頃いつも姉のスカートに隠れて、オドオドしていた妹ではなかった。一人の立派な女だった。
「分かった…。ただし危ない事はやめてよね」涼子は言った。
「ありがとうお姉ちゃん。どんな服が似合うかなぁ」
口では理解を示した涼子だが、気をつけて様子を見なければ…。無邪気に微笑む妹を見てそう思った。