【母親と社長】
安心しきった表情でスヤスヤ眠るまりもを抱きしめながら 俺は4ヶ月前の「あの日」の事を思い出していた
まりも…あのときは本当にごめんね
母親と社長のせいでまりもから笑顔を奪ってしまった
まず 俺の母親
俺が死んだ知らせを聞いた母親の口から出た言葉は
「今すぐ こっちへ連れて帰って来て!」だった
こないだハワイ旅行に行った体力もお金もあるのに来れないの?
どんなに時間がかかっても5時間で来れるのに 死亡の知らせ聞いてから13時間もよく待っていられるよね
普通の母親なら矢も盾もたまらずに駆け付けると思うんだけど社長に向かって言った言葉が「検死が済んだらすぐに実家に搬送して」だった
社長は指示に従い親戚でも何でもないのに母親と一緒に葬儀の段取りを始めた
規模の小さい会社が 社長が中心になって仕切り 従業員が手伝う社葬スタイルなら まだ理解できるけど社長の行動は明らかにおかしいんだ!
いくら 俺に横恋慕している黒木が取り乱したからって 従業員の弔問禁止なんて不自然な話だろ!
母親と社長の動き見てたら分かって来た
母親と社長は恋仲で 俺の実の父親は社長なんだ!
親父や親戚そっちのけで 社長は張り切って葬儀の段取りを一から十まで仕切っていた
常に 母親の横に寄り添い人目もはばからず号泣する姿を社員に見られたくなかったんだ
以前から 母親と社長は怪しいと思っていた
親父の経営する会社の取引先の社長だから 家に来る機会は多かったが 明らかに母親と俺を見る目が親父を見る目と違っていたし
親父の廃業を知った際には「息子さんは 今後私が責任持って お預かりいたします」とばかりに 俺を会社に入社させた
「社長の知り合いの息子」なので 社員みんな気をつかっていたが 親しくしてるとは言えなかった
家でも会社でも息がつまる思いだった
生きてるふりして死んでいる状態だったけれど…
俺と同僚の間の垣根を退けてくれたのは まりもなんだ
消えかけてた俺の命の火を おっきい花火にしてくれたのがまりもなんだ
そして…
愛おしいって言葉を教えてくれたのがまりもなんだ
そんなことを考えながら俺はまりもの髪を撫で 唇を重ねた