楽園(後)

LL=  2009-04-09投稿
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彼はほんの数秒、女性と唇を重ねて、

にこやかに笑い、


そして…




その場で喉を掻き切って死んだ。



そこは楽園だ。

悲しむ者は誰も居ず、
哀れむ者は誰も居ず、

駆け寄る者も、
悲鳴をあげる者もいなかった。


ただその死を知り、淡々と彼を崖から棄てた。


楽園は死を知った。 それはただのゴミになったのだと。




翌日、昨日まで彼が語っていた場所に人だかりが出来ていた。

だが、そこに彼の姿はなく、楽園の住人はただそこに佇んでいた。


次の日も、そのまた次の日も、楽園の住人はそこで佇んだ。


そして3日の朝、楽園は死を理解した。


死とは、日常の変化のこと。

それは、「今まで」からの欠落であり、「これから」に移り変わるものであると。




楽園が死を理解しても、住人は死が分からなかった。



ただ、一人を除いて。



彼に愛された女性は、死を理解し、涙を流した。


もぅ、戻ってこない彼を哀れんで、目が潤み、
もぅ、戻ってこない事に悲しんで、涙が零れた。



その《特別》の涙は、女性から隣の青年に、青年から後ろの子供に、伝播した。


楽園中の人が彼の死に泣いた。



女性はその辛い現実に泣いた。

青年はその哀れみに泣いた。

子供はその悲しみに泣いた。



楽園の大地は、初めて涙にその身を濡らした。



皆が泣き、そしてその《特別》を理解した。




その日、楽園はなくなった。




後に語る。

そこは、

悲しみを胸に抱き、

幸せを噛み締める、

理想郷。


『ユートピア』

彼の名を冠した、最も美しく、最も優しい世界。



writer−彼を愛する者より

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