それでも、知在系恒星頭脳の完成により、ドクター=キマリの計画に対抗出来る目処が付いたのだ。
だが、コンピューターがどれだけ優秀であっても、一番重要なのはそれを操作するのはあくまでも人間である、と言う事実だった。
ましてや、この空前絶後のスタブラコンピューター《SBC》は、性能が性能だけに使う側にも莫大な負担を声高に要求する代物となっていた。
繁雑かつ難解を極めたマニュアルに、それを理解出来る学者・専門家が四000万名―\r
これが、ドクター=サゴデンが弾き出した(必要最小限)の数値だったのだ。
意外にも人材には不足はしなかった。
最終的には銀河元号一六一八年中盤には、六千万人もの自発的応募者達が、キマリの最終兵器管制システムの解析作業に従事する様になっていた。
この有志達が、後に銀河と人類文明とを牽引する役割を果たす宙際士大夫《ユニバーサル=エリート》の原型であった。
彼等に加えて、およそ二億を数える協力者達《宙紳》が、航宙文明の指導層・バランサーとして、人類総会体制を支えて行く事になるのである。
宙際士大夫・宙紳達の力によって、恒星エリシュと人工ブラックホールとの間に築かれた《知在系》は見事に機能し、僅か三九秒の寿命の間にネット集合体の全てを調べ上げ、ドクター=キマリの鉄壁の守りを打ち砕く事に成功したのだ。
それは、最終兵器発動のたった三日前と言う、際どいタイミングであった。
ジュニアに率いられたユニバーサル=エリート達は、宗教界の支援を得て次なる仕事に取り掛かった。
ドクター=キマリの逮捕である。
皮肉にもキマリが予告した進化プロセスの決行日に当たる翌銀河元号一六二0年第一期九日に、それは実現した。
その時、知在系に対抗する超人工頭脳の研究に没頭していたキマリは、自分を捕えに来た官憲に《わしの研究の邪魔をするな》と持っていた空描筆を投げ付けたと言う。
銀河元号一六二二年第三期三八日(修正太陽暦八月八日)裁判を経てドクター=キマリは処分される素粒子破壊弾によって粉々に吹き飛ばされた。
こうして、ようやくにして最終兵器の脅威は消え去り、銀河と人類破滅と言う最悪のシナリオは回避された。
ドクター=キマリ=ジュニアとその一族は、その最終兵器廃棄及び解体を託され、《贖罪者の一族》と呼ばれる様になった。