本国アメリカに着いたブラフマンは、まず『レストラン・ターリーズ』に寄って夜食をとった。
このレストランのオーナーは昔、著名なメジャーリーガーのタクシー乗降時を狙って強盗を働いた事がある。
『俺をウィルヘルムと知っての狼藉(ろうぜき)か。』
と凄まれたので、持っていた銃を手放して平謝りをしたところ、
『銃口を向けられて、俺も一人前のアメリカ人になった気分だ。』
と気に入られ、強盗沙汰を座興で済まして貰ったうえに彼の出資でレストランを任された。その話題性もあってチェーン展開までに至ったというのがその履歴である。
この話は美談として語られる事が多いが、一番の利益を得たのはやはりウィルヘルム本人である。
所属するカブスのトレード要員にあがった際に潔く引退できたのはこのレストランのおかげであった事から、
『茶番劇ではないか、おれも一幕うってみるか。』
としばしば冷やかされるものの、しかしどちらにしても第一人者である。
ブラフマンは履歴に関係なくここの味が好きだった。
さて、夜食を済ませると早速指定された場所へと向かった。タクシーやバスは目撃履歴が残るので、歩いた。
着いた先は古いアパレル商社の地下ボイラー室だった。
『ターリーズみたいな馴染みの店には入るべきでなかったが、まぁあれで時差ボケがおさまったろう。ご苦労。』
握手で迎えたのは黒幕No.2である。