『あ。』
風は見事に彼女のスカートをふわりと舞わせた。
ほんと。見事に。
『ごっ…ごめっ…や、見てない!見てないから!僕見てないから…』
『ふとももまで見えた?』
『だっ!!だから見てないって!』
なんで僕がこんなに恥ずかしくならなきゃいけないんだろう。
本人はいたって冷静なのに。
『見たくせに。』
『見てない!!』
『顔が真っ赤。』
『暑いんだってば!』
『風が冷たいねってさっきまで話してたのに?』
見下されてる気分になるのは当たり前だ。
彼女の方が何枚も上手なんだ。僕よりもずっと。
『…ね。』
『なんだよ。』
僕はすっかりすねて、ふてぶてしい態度でかえした。
『昨日、"ブン"って。』
『ブン?』
『うん。呼ばれてたでしょ?』
あぁ。
『あぁ。あれ僕のあだ名なんだ。』
『あだ名?』
『わかりにくいよね。』
はははっと笑ったら、彼女はキョトンとした顔で
『なんで?なんでブンなの?』
と尋ねてくる。
それがなんだか嬉しくて
僕はすねていた事も忘れてわかりやすく説明した。
『文也の"文"ってさ、"ぶん"とも読めるでしょ?』
『あぁ!』
『そうそう。だからみんな僕のこと"ブン"って呼ぶんだよ。』
彼女があんまり納得するから、僕はちょっと得意気になった。
そして、彼女はキャンディーをもらった小さな子みたいに嬉しそうな顔をして
『あたしも"ブン"って呼ぶ。』
と呟いた。
僕はというと、よくききとれなくて、ポカンとした顔で彼女をみていた。