シンジの頭はレースに関しての考察に対して回転速度を上げていた。
レースに関する情報を可能な限り収集し脳にインプットする。入力された情報はありとあらゆるシチュエーションに対応できるように計算されシンジの頭に保存される。
最高の結果。最悪の結果。最善の選択。最悪の選択。
計算が終わると、その答えがまた次の問題を生む。
計算の連鎖。計算の螺旋。
シンジの思考は加速度を増して、より高次元のものへと進化する。いや、退化することもある。進退の極みに達した時、シンジの思考は現実界へ帰還する。
そして食べる。ひたすらに食べる。何でも良い。考えると腹が減る。
レース前日に車をメンテナンスしながらも、幾つかのシミュレーションをシンジはトレースしていた。
問題はどうやって脱出するかだ。
恐らくレースは高確率でスタート直後に乱闘が発生するだろう。その戦闘でどうやって無事に車を走らせるか?また車を、チームを守るか?
やはり英彦に頼るのが一番良い。石塚クリーニングの長兄、英彦は学生時代は相撲部で滅法ケンカが強い。
しかし、温厚で争いを極端に嫌う。どうやって戦闘に兄貴を巻き込むか?もちろん戦闘は、なるべく避けるようにするが、最悪の場合も想定しなければ…。
思考を一時中断し、顔をあげると明菜が自分を見ていた。
幾つかの会話をしてシンジは最後に言った。
「明菜…。俺達を信じてるか?」
明菜は、大きな瞳をぱちくりさせて言った。「当たり前じゃん。でもね、最高の結果は、三人が無事に帰ってくることよ」
この可愛い姪の為にもシンジは、どうしても勝ちたいと思った。孤高の天才が初めて本気を出す気になったのだ。勇気凛々のデブだった。