【遥かな約束】
トントントン
コトコトコト
いつもお日様が低くなる時間になると聞こえて来る音
耳に優しい心地いい音色はスイートルームに来て初めて耳にした音だった
俺が地上に住んでいたときは 一度も聞いた事のない音だった
結婚前に住んでいた家でも結婚してから住んでいた家でも聞いた事のない音だった
音だけでなく 一家の主婦が夕食の支度をしている姿を見るのも 初めての経験だった
多分 主婦の仕事の中で一番重労働で頭を使う仕事だろう
まして まりもは病み上がりで身体が弱っているし
身長が高いから 調理台が低くて少し辛そうなときもある
そんな重労働でも まりもは楽しそうにこなしている
疲れて帰って来るぱぱや子供達においしいご飯を食べさせたいからだけど 俺はもう一つの理由を知ってるんだ
俺が死んで一ヶ月後…
買い物に行く途中のまりもは「霊視鑑定」の看板の前で足を止めた
一瞬躊躇したが この一ヶ月間ずっとまりもの心の中にあった「ひろあきは成仏していない ひろあきの魂は暗闇の中をさまよっている」黒いモヤモヤを払拭したい思いから 建物の中に入った
鑑定の結果は…
「近いうちに 貴女に大きな変化が起こるが 亡くなった彼が導いてくれる」
「来世では必ず結ばれる」
そのときは 気休め程度にしか受け取っていないまりもだったが 病に倒れ一命を取り留めたから「来世では結ばれる」を信じているんだ
俺は その鑑定士さんとは会った事もないし話した事もないけど 全くその通りだよ
俺はずっとまりもを支えて助けるよ
そして 来世ては絶対に一緒になろう
まりもが楽しそうに料理してるのは 家族の他に俺への思いがあるって事 他の誰も知らない二人だけの秘密だね
そうこうするうちに 家族が帰って来て 二人きりの時間は しばらく中断になった