彼は確かに…。彼の感受性は普通の人より少し優れ、その精神は人より少し脆弱なのだ。彼は人の仕草を観察するのに長けている。彼は他人の少しの異変にも敏感だ。手の動きから眉の変化まで見逃すことはない。しかし、それは彼にとっては苦痛でしかない。彼は他人のそれらの動きで、ある程度のことは理解する。他人の怒り、嫌味、嫉妬等の感情が自然に頭の中に過る。彼の精神はそれだけで擦りきれてしまいそうなのだ。
「おはよう。」
彼に話しかける少女がいた。少女といっても歳はもう18にはなるだろうか。突然声をかけられ彼は驚いた。誰なのだろうという疑問と同時に彼の経験的勘とその類い稀な能力は早くも感知した。彼女はまさしく彼がもっとも苦手とするタイプの人間だ。誰にでも愛想よく、その場の雰囲気にすぐ順応する。そして、自分の意思を見せずに上手く立ち回る。この手の人間はいっそタチが悪い。場によって顔を変えるから彼のようなタイプには他の人のより不安を与えるのだ。
それはそうと彼女は誰なのだろう。前に会ったことがあるのだろうか。そんなことを考えて彼が言葉に詰まっていると彼女のほうから切り出した。
あぁ、そうだったのか。彼女もまた…