人間はそれを「平日」と呼んでいるのだけど、君はそんなこと知らない。君には平日も休日も祝日も盆も正月もない。そんなこと、君は知らない。
人間はそれを「昼休み」と呼んでるんだけどね、君はもちろん、そんなこと知らない。君には時間なんてない。
君は歩いている。線路に添って続いている塀の上を、君は四本足で歩いている。
人間達は今、「平日」で「昼休み」で、そんで…。今日は快晴だった。陽気が街全体を包み込む。それが、時間をフニャフニャに緩める。まるでドロドロ溶けだした飴みたいな、ね。それで、人間達は心地よい眠気に誘われる。それは君も一緒だ。快晴で、陽気で。それは時間を緩めているようでね、実は変わらず。だから、その多少のギャップに苛まれながら人間達は慌ただしく動く。腕に巻き付けた「時間」を気にしながら、ゼンマイ仕掛けの人間たち。君はそれを眺めながら、ゆっくりと塀の上を歩く。時々立ち止まってケノビする。そんで、また歩く。人をみる。人をみる。よく分からないと思う。というか、興味がないんだ。君は苛まれることを知らない。
君が「ネコ」とか「ニャンコ」とかって呼ばれていること、君は知らない。とりわけ「黒猫」と分類されていること、君は知らない。
君が日陰に入ったとき、鈍行電車が君とすれ違った。
風で君の短い毛が、軽くなびいた。
鈍くて緩い音が君の背中で段々小さくなって、やがて、消える。
そんな時間が快晴とか陽気と混ざり合って、更に時間がドロドロフニャフニャ溶けだすみたいな。そんな。
それが。
それが、君には少し分かるような気がした。
まぁそんなことどうだっていいんだけど。興味がないから。
君はまたケノビした。
塀の下でちっさな人間が君を見上げて、ゆび指して、おっきな人間のズボンを引っ張っている。
君はそれを横目でみてアクビした。