寒かった。からだの芯からキンキンに冷えた。自分の感覚では夏に駅の売店で売られている冷凍ミカンぐらい冷えていた。
何分ぐらいいたのだろうか。定かではなかったが、途切れはしないにしろ、大体3〜4曲分のブルースを聴いていた。その間、十字路には誰一人として現れなかった。おれはガタガタとからだを震わせながら、ジッと十字路の中心を見ていた。右へ左へ、ギターケースを持ち替えては空いた方の手をポケットに突っ込んだ。
音の出どころは近くだった。あきらかにおれのいる十字路から聴こえてきているように思えた。だが、それは間違いだった。気付いたのは寒さに耐え兼ねて家に戻ってきたあとだった。
どこからともなく聴こえるようでいて、間近で聴こえるようでもある。それは子供の時に感じた聴こえかたと一緒だった。だから、まさかこんなに近くで音が鳴っているとは夢にも思わなかった。
2階の一室にギターを置きに行った。しばらく1階のだるまストーブにぴたりと張り付いていたお陰で、からだの震えは止まっていた。コタツの上のミカンのように食べ頃の常温に戻っていた。なのに、手の震えだけが一向に止まらなかった。震えが止まったのはギターケースを離した瞬間だった。
ケースの中を見たおれは、ギョッとした。ギターの弦が縦横無尽に動いていたのだ。押さえられ、はじかれ、震えていたのだ。
取り戻したはずの体温が再び下がっていくのを、からだの芯から感じた。