「絶対に駄目です!!何を考えてるんですか!!由香はもぅ中学生になるんですよ!」
「何時間かかってでも帰って来て下さい!!」
夜遅く、台所の明かりの中で母がそう言って電話を置いたのは、
少年が小学3年生の頃。
薄目を開け、シンクに崩れる母を襖越しからボゥッと見ていた。
いつも笑顔を絶やさず、元気に接する母。
薄暗い台所の明かりが、さらにその悲しさを広げた。
翌朝、少年が目を覚ますと、父の姿は無かった。
しかし「父の香り」を感じ、家中を歩いて回る。
「お父さんは、もう会社に行っちゃったよ。」
母が優しく、笑顔で少年に言った。
その笑顔に「元気」は無かった。