コイン投入口に120円玉を入れて、僕はボタンを押す。
「ガシャン」と音をたてて、受取口に缶コーヒーが落ちる。
ここまでは、普通だった。
しかし、僕が缶コーヒーを手に取ろうとするよりも早く、自販機の背後から2本のロボットアームが現れたのだ。
「あの、ちょっと」
わけもわからず僕は抗議したが、5本指のロボットアームは、器用な仕草で缶コーヒーを取り出し、プルタブを開けた。
「僕のですよ!」
なんだか幼稚な言い方になってしまったが、そんな僕を無視して、自販機はロボットアームを操り、缶コーヒーを飲み干した。
「オイシカッタ」
しゃべった。
缶コーヒーを飲み終えたばかりの自販機が、機械じみた抑揚のない声で喋ったのだ。
「僕のお金、返して下さい!」
でも、やっぱり無視されて、自販機は空き缶を投げ捨てた。
「アキカンハ、クズカゴニ」
また、しゃべった。
しかも、かなり理不尽な内容だ。
「自分で飲んだものは、自分で…」
僕は、間違った事は言っていない。
「アキカンハ、クズカゴニ」
「あの、ですから…」
「アキカンハ、クズカゴニ」
自販機があまりにもしつこいので、僕は、しぶしぶ缶を拾って、そばにあったクズカゴに捨てた。
「あーあ」
喉がカラカラなのに加えて、120円玉も戻ってこない。
僕は、他の自販機を探そうと思った。
「ココラヘンニ、ジハンキ、ナイヨ」
また、しゃべった。
「え、本当ですか?」
つい敬語で返事をしてしまった。
「ココデ、ノンデイキナヨ。サッキ、オゴッテ、モラッタシ」
「でも…」
「エンリョ、スルナッテ。ホラヨ」
ボタンを押していないのに、受取口へ缶コーヒーが落ちてきた。
「……」
僕はロボットアームを警戒して、ひと呼吸おく。
「ナニモ、シナイッテ」
信じろという方が、おかしい。
「ドウシタ。ナニヲ、オビエテイルノダ」
絶対、何かワナがあるに決まっている。
「ヘタレ」
「なんだと!」
いきなり侮辱された。
僕はカッとなって、自販機の受取口に手を突っこんだ。
「イヤーン。エッチ!」
そのあと、僕は「強制わいせつ罪」で逮捕された。