機械のジェンダー

雛祭パペ彦  2006-07-12投稿
閲覧数[844] 良い投票[0] 悪い投票[0]

 コイン投入口に120円玉を入れて、僕はボタンを押す。
「ガシャン」と音をたてて、受取口に缶コーヒーが落ちる。
 ここまでは、普通だった。
 しかし、僕が缶コーヒーを手に取ろうとするよりも早く、自販機の背後から2本のロボットアームが現れたのだ。
「あの、ちょっと」
 わけもわからず僕は抗議したが、5本指のロボットアームは、器用な仕草で缶コーヒーを取り出し、プルタブを開けた。
「僕のですよ!」
 なんだか幼稚な言い方になってしまったが、そんな僕を無視して、自販機はロボットアームを操り、缶コーヒーを飲み干した。
「オイシカッタ」
 しゃべった。
 缶コーヒーを飲み終えたばかりの自販機が、機械じみた抑揚のない声で喋ったのだ。
「僕のお金、返して下さい!」
 でも、やっぱり無視されて、自販機は空き缶を投げ捨てた。
「アキカンハ、クズカゴニ」
 また、しゃべった。
 しかも、かなり理不尽な内容だ。
「自分で飲んだものは、自分で…」
 僕は、間違った事は言っていない。
「アキカンハ、クズカゴニ」
「あの、ですから…」
「アキカンハ、クズカゴニ」
 自販機があまりにもしつこいので、僕は、しぶしぶ缶を拾って、そばにあったクズカゴに捨てた。
「あーあ」
 喉がカラカラなのに加えて、120円玉も戻ってこない。
 僕は、他の自販機を探そうと思った。
「ココラヘンニ、ジハンキ、ナイヨ」
 また、しゃべった。
「え、本当ですか?」
 つい敬語で返事をしてしまった。
「ココデ、ノンデイキナヨ。サッキ、オゴッテ、モラッタシ」
「でも…」
「エンリョ、スルナッテ。ホラヨ」
 ボタンを押していないのに、受取口へ缶コーヒーが落ちてきた。
「……」
 僕はロボットアームを警戒して、ひと呼吸おく。
「ナニモ、シナイッテ」
 信じろという方が、おかしい。
「ドウシタ。ナニヲ、オビエテイルノダ」
 絶対、何かワナがあるに決まっている。
「ヘタレ」
「なんだと!」
 いきなり侮辱された。
 僕はカッとなって、自販機の受取口に手を突っこんだ。

「イヤーン。エッチ!」

 そのあと、僕は「強制わいせつ罪」で逮捕された。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 雛祭パペ彦 」さんの小説

もっと見る

SFの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ