美穂は遼一からのメールをドキドキしながら待った。
10分待っても、20分待ってもリプライは無かった。
ワタシ、ウザかったかなぁ…。はぁ、失敗。
でも楽しかったなぁ…。まぁ、どうせ、何日かしたらレースで会えるんだし。今日の所は、これぐらいでいいか…。
美穂は、自分が以前とは比べ物にならないほど、ポジティブになっているのに気付いていない。
遼一と会う以前の美穂だったら、このシチュエーションには耐えられなかっただろう。
自己嫌悪にハマり後悔の連鎖で泣いていたに違いない。しかし、今の美穂は、遼一とのメールを何度も読み返しては、ニヤニヤしていた。
テレビを観ようと、リモコンに手を伸ばした時、携帯が鳴った。
美穂は慌てて携帯電話を見る。遼一からのメールだった。美穂の胸がドキンと鳴った。
<ああ、心配してくれて、ありがとう。大丈夫だよ。大分、体力も戻って来てるしね。今も子供を、お風呂に入れた所。結構大変なんだよ、元気に動き回るから。だから気にしないで。>
ああ、お風呂入ってたのかぁ…。だからリプライに時間がかかったのね。そうよ、メールだもん。電話じゃないんだから、時間がかかって当たり前よ。チャットしてるわけじゃないし。
ああ、嬉しい。楽しい。
<そうですか。それなら安心しました。でも無理は禁物ですよ。レースまで間もなくですね。なんだかドキドキしてきました。それでは、おやすみなさい。>
本当は、もっとメールしたい。だけど、遼一さんは、家庭があるから邪魔しちゃ悪い。ここらへんが潮時だろう。
遼一から、<そうだね。おやすみ。>とリプライがあった。
男の人に、オヤスミとか言われちゃた!
美穂は携帯を握りしめ、胸に当てて寝転がり、天井を見ながら足をバタバタさせた。
ネクラ、ネガティブ、引っ込み思案、オタクの美穂の大冒険だった。例え、それが、他人の日常でも…。これぐらい今時、小学生だってやっている。
美穂は、その晩久し振りにぐっすり眠った。遠足帰りの子供のように…。