子供のセカイ。8

アンヌ  2009-04-18投稿
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そこは立っている感覚がわからなくなるほどの暗闇だった。伸ばした手の先さえ見えない。
美香はその中で懸命に目をこらし、小さな舞子の姿を探したが、広がるのは目を閉じていても開いていても同じ闇。見つかるはずがなかった。
「舞子――っ!」
美香のよく通る声が、暗闇の中に溶けていった。何もない。美香はゾッと背筋が寒くなるのをこらえ切れなかった。このまま舞子が見つからなかったら…手遅れになったらどうしよう…!どうしよう……どうしよう…!!
美香はついにその場にしゃがみこんだ。ぺたんと尻をつくと、冷たい床の感触が全身の血液を冷やしていった。
(舞子……。)
楽しそうな笑い声。きゃっきゃっと笑って跳ね回る元気な妹。幼い、妹……。
「っ…!」
美香は泣いた。舞子を守ると決めてから、初めて流す涙だった。
しょっぱい味が口の中に広がって、美香はバッと涙を服の袖でぬぐった。泣いてどうするの?泣いてなんになるの?早く、舞子を見つけなきゃ……あの長身の男にそそのかされる前に……。
美香は立ち上がろうとした。その時、上の方から舞子の楽しそうな声が降ってきた。
『あははははっ!見て見てハオウ!お姉ちゃんが泣いてるー!』
「舞子……!」
美香はハッと上を見上げた。しかしそこにはやはり闇があるだけだ。
『そんなに笑っちゃ失礼だよ、舞子。あの子は、アレはアレで必死なのだ、そうだ……。』
耕太とやらが言っていた、と、舞子の前では猫かぶりの覇王が、それでも明らかに馬鹿にした口調で笑う。
しかし美香はそんな事で腹を立てるほど小さい人間ではなかった。
「舞子、あなたどこにいるの!?ここに来て、一緒にお家に帰りましょう!」
精一杯声を張り上げて叫ぶ。すると舞子の焦ったような声が響いた。
『うわ、こっちの声聞こえちゃってる!どうして!?』
『……たぶん舞子の強力な力のせいだ。“闇の小道”から“子供のセカイ”へ続く入り口が、舞子の力で緩んだままになってしまっているんだ。』
さあ舞子、早く入り口を塞ぎに行こう、あの子がこちらへ来られないように。
そう優しげな口調で言った覇王に、考えなしの舞子でさえ、さすがに閉口した。
『で、でもそうしたらお姉ちゃんはどうなるの!?こっちへ出られない、あっちにも戻れないなんて事になったら――。』

美香は久しぶりに舞子の良心を見た。

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