『…ねぇねぇ。何かリクエストしてよ。』
僕の気持ちなんか知るよしも無しに、無邪気な声で話し掛けてくる彼女。
君と同じ声が、僕の隣で聞こえてくる。
あの、楽しくて…幸せだった頃の思い出が…蘇る…。
何とも言えない、妙な気分で頭がおかしくなりそうだった…。
今にも、目の前の彼女を抱きしめたくてしょうがなかった…。
衝動を抑えることで精一杯だった…。
……“君”じゃないのに…。
『俺…あまりピアノの曲とか知らないから…。』
『なぁーんだ。曲名聞いてきたから、少しは興味あるのかな?って、思ってたのに…。』
カウンターのイスをクルッと一回転させてから降り、今度は僕の回りを歩き始めた…。
ピアノ弾いてる時はすごく大人びているのに、こうした言動をみるとまだ15、6の少女にも見える…。
思い切って僕は質問をしてみた。
『…ところで年齢いくつなの?』
『もー!年齢聞く前にまずは名前でしょ?』
頬を膨らませながら、僕の肩に両手を置き、横から僕の顔を覗きこんでくる。
彼女の顔が目の前にある…。
僕の気持ちも知らないで、無邪気に近づいてくる彼女…。
『アタシ名前は来夢(ライム)。今年で16……高校には…行ってない…。』
そう言って、少し寂しそうにうつ向いた。
『やっぱりな…若いと思ったよ。俺と10も離れてる』
僕は、自分の左肩にある、彼女の白い手をどかした。