入れ替わるように正が来たのだが、その表情は明らかに、にやついていた。
「中村〜お前絶対話し聞いてたろ」
「偶然だよ。でもよ〜お前明らかに鈍すぎるだろ。ありゃデートのお誘いだろうによ。」
「…そうか?だけど、約束がある以上無理だからなあ。」
「断りゃいいじゃんか。急用が出来たとか。いくらでも理由付けられるだろ」
「…まあ、そうすれば良かったのかもしれないな。でもどうしても話さなきゃならないんだ。あの人とは」
「嶋野って人のことか?」
「ああ。どうしてもな」
「なあ、勇一。お前入社以来、ガキの頃の話はしても、恋愛の話ってしたことないよな?なんでだよ?」
「悪い…中村。それは、現時点では言えない。30過ぎて何言ってるんだと思うけど。」
勇一の少し思いつめた表情を見た正は、とりあえず引いてみた。
「わかったよ。でも、お前がうらやましいよ。俺なんか入社以来あんなこと言われたことないぜ。俺だって優しくしてるけどなあ。」
「大丈夫だよ。中村。お前だって充分優しいよ。まだ、お前の価値を認めてくれる女性が現れていないだけだよ。」
「そうかな〜?」
「ああ。お前の明るさに、落ち込んだ時は随分救われてんだぜ」
「勇一〜!なんか惚れちゃいそうだよ〜」と言いながら抱きつこうとする正に「気持ち悪いっつうの。お前そんな趣味ないんだろ?」
「だってよ〜。勇一だけなんだもん。そんなこと言ってくれんの。」
「だったら頑張れよ。俺のことはいいから。」
「ありがとう。…ところで勇一、あの人との話は、お前にとって大事なことなのか?」
正の質問に、勇一は少し間を空けてから「…ああ、もし今の俺に何か閉ざしているものがあるとしたら、話さないと前に進めない気がするんだ。」
「え?前へ?それどうゆう…」
「とにかく俺行くわ。またな」
勇一が去ったのを確認して、正は携帯を取り出した。
「ああ、中村です。今行ったんで、5分後に」と連絡し、店の前のファミレスに向かった。