三人の歌姫は、レース当日に、開催地点より車で20分ほど離れた温泉町に宿をとっていた。寂れた温泉は、騒がしい日常を遠ざけ、有名人の三人は心も体も癒された。
何しろ、旅館の従業員の平均年齢は60才以上のばあちゃん達だ。歌姫を、ただのOLくらいにしか思っていない。客もまばらで、年齢層が高い。しかし、料理は美味しく、温泉は気持ち良かった。
ナミエは「命の洗濯とはこういう事を言うのね」と上機嫌だった。アユミもこんな温泉町が自分の地元にあるとは知らなかった。それほど田舎でマイナーな場所なのだ。
歌姫達が温泉からあがり、部屋へ戻ろうとした時、笑い声が聞こえてきた。
「やだぁ〜!」とか「いくわよ〜」など、不自然な女言葉が目立つ。歌姫達は、同時に顔を見合わせた。
業界にはよく居る類いの人間…。声のする方に行ってみよう、ということになった。目立ちたくはないが、好奇心に勝てなかった。レースまでは、まだたっぷり時間があるし、他にする事もない。
少し広めのロビーに売店があり、ボロい卓球台が置いてあった。さっきの声はここから聞こえていたようだ。
二人がラケットを持ち、一人が審判をしている。全員知った顔だ。
イッコー、カバちゃん、愛ちゃんのオカマチームの面々だった。
三人のオカマは、同時に、三人の歌姫に気付いた。
「やっだぁ〜!どうしたの?何してるの?こんな所でぇ〜!」審判役をしていたイッコーが言った。
いやいや、それはこっちのセリフやがな…。クミは、心の中でツッコミを入れた。
実はカクカクシカジカで…。主に愛ちゃんが、オカマチームの経緯を、クミが、歌姫達の事情を語った。
「へぇー、イッコーさん達もレースに出るんですね。断然、応援しますよ!あっ良かったら私達の歌も聴いて下さいね」アユミが言う。
突然、ナミエが、カバちゃんの袖を掴んで言った。
「この振り付け、しっくりこない所があるの!ちょっと見てくれない?」
「良いわよん。ちょっと見せて」カバちゃんは快諾した。