――…『ユキだよ』…――
耳が痛い。
今日担任に怒鳴られたせいなのか、
耳鳴りがする。
『自己申告しただけじゃんか』
僕は屁理屈を言って、耳鳴りが止むのを待ちながら
ずっとベッドにねころがっている。
『……ユキ…か。』
あれからずっと、彼女のことが頭から離れてくれない。
『明日から"ユキ"って呼ぶべきかな…や、でもいきなり呼び捨ては…でも"ユキちゃん"も慣れ慣れしい感じするし…』
僕はひとりでぶつぶつ言っている間に夢の中にいた。
―――…………『ブン。』
なに?
『ブン。あのね。』
え?
『あたしね。』
うん。
『……だから……で……けど…』
なに?なんて言ったんだ?聞こえないよ。
もう一回言って!
ユキ!
どこいくんだよ!
まだ名前よんでないのに!
ユキ!ユキ!
――――…………『ゆ…』
朝の静けさは、僕の叫び声でやぶられた。
『 ユ キ ! ! ! ! 』
ガバっと起き上がったつもりが、
ぐるっと視界が一回転して、僕は床にころがった。
『いたたた…』
外が明るい。
なんだ…夢かよ…
『…やな夢。』
昨日あのまま寝てしまったのだろう。
『いま…なんじ…』
ゆっくり時計を見ると、針は信じられない方向を指していた。
『…………ち、遅刻だーーッ!!!!』
僕は走った。
とにかく走った。
いつもなら、あくびをしながら制服に着替えて渋々家を出ているはずなのだが、
今日の僕はとにかく走ることしか考えてなかった。