僕を廃墟の中まで誘って、
黒猫は消えた。
建物の内部は光源などなく、
人間の僕にはあまりにも暗すぎた。
そのため、当然のことながら
黒い胴体の小柄な生き物の姿などすぐにわからなくなってしまったのだ。
目的物を失った僕は突然周りの情景が五感に勢い良く流れ込んできた。
激しい雨音、
わずか差し込むネオンの彩色、
生乾きのペンキの匂い、
足元にまとわりつく泥水の冷たさ、、
魔法が溶けたように、
すべてを取り戻した僕はしばらく
狐為らぬ猫に化かされた気分になった。