神野美穂は、ソワソワして待ち合わせの喫茶店にいた。
今日は、レースの日。遼一さんに会える…。実際に会うのは二回目だが、メールのやり取りをしていたので、もう何度も会っているような気がしていた。
もちろん、美穂は自分の脳内で何度も遼一とデートしていた。妄想は得意分野だ。今日、何を着ていくか散々迷ったが、結局、姉の涼子にもらった服を着ていた。「自分に自信を持ちなさい」そう言って、涼子は美穂に似合いそうな服を何着かくれた。
メイクも涼子に教えてもらったり、本を読んだりして頑張るようになった。全ては、この日の為に…。
今まで、外出する時も美穂は、ほとんど素っぴんだった。信じられない天然記念物級の27歳だ。
初めて遼一に会った日もそうだった。しかし、今の美穂は、それなりにファッションとメイクが整っていた。別人のようだ。
遼一さんに変わったワタシを見て欲しい…。遼一さんが、人を見かけで判断したりしない事は、良く分かっている。だけど、努力してるって姿勢は気付いてくれるかなぁ。
美穂は淡い期待を抱いて待っていた。約束の時間より50分も早く来てしまった。
初めて遼一と会った日もこの喫茶店だった。美穂は、その日の事や遼一からもらったメールを読み返しては、妄想をしていた。自然と笑みがこぼれる。
魅力的な微笑みだ。元来、美人なのにネガティブでネクラでオタクな為に、今まで随分損をしていたのだ。
店の入口に一人の女が現れた。さほど広くはない店内だが、それでも7〜8人の客がいた。全員男性だ。その男達が、現れた女に一瞬目を奪われる。吉原桃子だった。
美穂は、妄想が飛んでしまう。少なからず前を向き始めた美浦の性格を一瞬でへし折られた気分だ。
全身で女を強調している桃子。もし、オーラというものが自分に見えるのなら、桃子の全身はピンク色に見えただろう。と美穂は思った。
「ひ、久しぶりね」桃子のオーラに圧倒され、いつものネクラに戻ってしまった美穂が言った。
「アタシ、約束の時間より早く来たのなんて初めてよ」桃子は言った。