8時過ぎ、佐野と待ち合わせた正は、店内に嶋野を確認すると、2人の声が聞こえる範囲の席で様子を見た。
まだ、勇一は来ていなかったが、嶋野の緊張した様子は見れていた。
「なりゆきとはいえ、あんたと2人きりで食事するとはね…もうちょっとイケメンなら嬉しいけどね。」
「はあ〜?別に俺だって食事が目的じゃないんだから、とくに嬉しいとかないよ!」
「あのね〜私まだ33歳の独身よ。これでも、昔はブイブイ言わせてたんだからね!」
「その面影感じられないよ!だいたいブイブイなんてあまり使わないよ今時」
「失礼ね!あんたもてないくせに。食事してあげるだけ感謝しなさい」
「あのね〜」
2人のやりとりを、いつの間にか聞いていた勇一が切り出した。
「珍しいね?デート?なんかお似合いだよ」
「違うよ!勇一。これは…」と言い始めた正に、佐野は慌てて、正の首を引き寄せた。
「あんたバカ?違うなんて言ったらばれるでしょうが!様子を見にきたこと」
「す、すみません…つい」
「そ、そうよ。荒木さん。私から誘ったの。」
「え?今正が違うって言った気がするけど…」
「照れてるのよ!ね?中村さん?」と言いながら、佐野は正を睨み付けた。
正は、佐野の迫力に負けて渋々同意するべくうなずいた。
「あっ、そう良かったな。中村。佐野さん頼りになりそうだし、俺は応援するよ。佐野さんも、中村をよろしく」
「ありがとう。荒木さん。私もがんばるわ」
「頑張る?何を?どうゆう…」と、正が言いかけると、今度は佐野のパンチが飛んだ。
「あたっ!何する…」と言いかけた正だが、その痛さに観念した。
「まあ、ごゆっくり。邪魔しないからさ。俺も大事な話があるから邪魔しないでよ。2人とも」
多少、疑いの目を向けた勇一だが、ひとまず嶋野の待つ席に向かった。
「全くあんたバカ正直に何バラそうとしてんのよ!」
「すんません。つい…」
「ペナルティとして、あんたのおごりだからね」
「えっ?そんな〜冗談でしょ?」
「何?女に金ださせる気?」と言いながら、佐野は殴る構えを見せたが、もはや正に反抗する気力はなく、「わかりましたよ。おごらせていただきます」と言わせた。
そして、2人は勇一の方を向いた。