・「ケンカした時の事覚えてるか?」
「ああ、覚えてるよ」
「あの日の帰り際にも言ったけど俺、詩織の席の横だったお前にやいてたんだよ。もしかしたら詩織はお前の事が好きなんじゃないかってずっと思ってたんだ。それからもしかしたら両想いなんじゃないかって」
「それは考え過ぎだよ。お互い、友達以上は想ってなかったし現に俺、詩織からチョコもらってないしさ」
「そうだよな。今、思うとすごい思い違いしてたんだよな。本当に恥ずかしいよ」
剛が苦笑いした。
「でも、なんで俺に礼を言うんだ?」
「あのケンカがきっかけになって詩織に言おうと決心させてくれたんだ。詩織が貴士を好きでもいいから一緒に卒業記念写真をとろうって。ケンカした後、自分に素直になる事に気づかせてくれたんだよ」
剛は“まぁ、石垣を作る事は出来たけど橋がかかる事はなかったけどな”と少し照れ臭そうに言った。
・ 屋台を見つけたので“ちょっと寄って行かないか”と言うと剛も頷いて僕達は屋台に入りラーメンを頼んだ。
「ずっと言わなきゃいけないって思ってたんだ。だけど中学ではクラスも違って話す事なかったし、高校も違ってたしおまけに俺、中退して親に反発して家出をしたんだ。それから県外の派遣会社で働きながら生活してたもんだから、成人式の時も帰って来なかったんだ。帰って来たのは一昨年位なんだよ」
ラーメンを食べながら剛はそう物語った。
・「今、剛は恋人いるの?」
ラーメンの汁をすすりながら聞くと、“いるよ”と答えた。昨年末から付き合いだしたらしい。そのせいもあって同窓会にも顔を出せなかったそうだ。
「貴士はいるの?」
答えるのに少し迷ったが正直に二股をかけてる事を話した。それを聞いて“お前もすみにおけないな”と汁をすすりながら言った。だが、その後すぐ真摯な顔をして、
「一人にしぼらないと後で絶対後悔するのはお前だぞ」
と、言った。剛が言うせいか妙に説得力があった。
「後者の彼女と付き合いだしたのはこの数日の間なんだ。実は誰にも話してないんだけど小六の時に俺、同じ掃除の班にいた二つ下の娘を好きだったんだ。昨年の九月に汽車で偶然見かけたんだけどその時は声を掛けなかったんだ。でも、今年の二月に偶然会って連絡を取り合うようになったんだ」
僕の話しに剛は熱心に耳を傾けた。
「俺の卒業記念写真の相手はその娘なんだ」