公園のベンチには、腰の曲がったおじいさんが地面を歩く鳩たちを穏やかな顔で見つめている。
「こんにちは」
「はいこんにちは。お嬢さんも遊びに来たのかい?僕はさっちゃんと待ち合わせでね…でもちっとも来ないんだ。忘れてしまったんだろうか?」
そう言ったおじいさんの顔は酷く悲しそうだった。
真矢は寂しさを押し殺して微笑む。
「きっと来ますよ。大丈夫」
「本当かい?どうしてあんたにそれがわかる?」
「大丈夫、わかるんです…」
大丈夫。
だから待ちましょう。
いくら待っても来るはずのないことを知りながら、それでも真矢はまたいつものようにそう言った。
「その人が来るまでこれで遊びませんか」
「これ?綾取りでもするのかい?」
「いいえ」
『僕が全て忘れて、僕でなくなってしまったら…お願い出来るだろうか?』
『……心からの、願いなら』
先程の顔によく似た悲しい目で微笑んで。
『頼む。すまないね』
ゆっくりと、ロープをおじいさんの首にかけ。
笑いながら、真矢はおじいさんと共に真矢も手放した。