〜〜第一章〜〜
「おーい、ユアン!一人でどこ行くんだよ」
ユアン・アスラエルは、背後に視線をめぐらした。
そこには、ユアンの親友クリス・セラインが息を切らしながら走っていた。
「何だ、いきなり。別にどこにも行かないが…」
そう言って苦笑いしながらクリスを見る。
「だってさ、ユアンがこの時間に歩いてるなんて珍しいから…」
クリスは紅い唇を突き出した。
「そうか?最近はよく歩いているが」
「いや、絶対何かある!」
そう言われ、うっすらと微笑むユアン。
その灰色の目は優しげだった。
「本当に大したことじゃないんだ。ただ、森に薬草をとりに行こうと思って」
「な〜んだ。そんなことかよ」
「だから、大したことじゃないと言っただろう?」
がっくりと肩を落とすクリスを見て、困ったように辺りを見渡した。
「クリスも行くか?」
そう尋ねた途端、クリスは金の目を輝かせてユアンを見た。
「俺も行っていいのか!?」
「本当はそのつもりで後を追ってきたんだろ?」
からかうような視線に、クリスは豪快に笑った。
「さっすが!よくわかってんじゃん」
ユアンの肩をバシバシ叩く。
「お前はわかりやすいからな」
思わぬ痛みに顔をしかめながら言った。
「よ〜し、森に行くか!」
そう言って駆け出すクリスを、ユアンは笑いながら見つめた。
真昼の日差しが風を伴って優しくそよぐ。
ほっと落ち着くような、そんなのどかな風景が、誰もが忘れてしまいがちな安心する空間がこの村にはあった。
そしてそれは、ユアンの小さな誇りと、かすかな尊敬の念でもある。