思い出の足跡改めセピアカラー(42)

優風  2009-04-23投稿
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・頭の中が真っ白になった状態だったのかそれとも目の前が真っ暗になった状態だったのか僕には把握出来なかったが舞の顔は不安の色に染まり明らかに動揺し何か言おうと言葉を探してる風だった。僕は静かな声でもう一度、

「別れてほしい」

と、言った。舞はやっと言葉を見つけた様子で、

「本気で言ってるの?」

と、問うてきた。僕は、舞の目を見て、

「本気で言ってるんだ」

と、答えた。舞は目に涙を浮かべながら少し俯いて“どうして”と弱々しい声で呟くように言った。僕は少し間を置き、深呼吸をしてから、

「他に好きな人が出来たんだ」

と、答えた。ついさっきまで二人で声を弾ませながら明るく話してた雰囲気がまるで嘘のように消え去り、僕が発した言葉で一気に湿っぽい陰気な雰囲気に変わっていた。

「ねぇ、嘘だと言ってよ。いつも言ってる冗談でエイプリルフールだから驚かそうと思って言ったんだって言ってよ」

涙を流しなから僕を見てそう言った。でも、僕は目を反らし、

「ごめん…。」

と、だけしか言わなかった。周囲の客達が僕達を見てひそひそと小声で話してるのを耳にした。それからしばらく沈黙が続き舞は泣いていた。僕もなんて言葉をかけていいか分からず黙っていた。とりあえず、思いついたのは店を出る事だった。

・四月といっても気温は低く夜風が身にしみて寒さに縛られた。僕達は無言のまま夜の街並みをゆっくり歩いた。それから公園を見つけてベンチに腰を下ろした。

「やっぱり嘘だって言ってくれないんだね」

沈黙を破るように舞が地面を見つめながら呟くように言った。

「もう決めた事なんだ」

僕も地面を見ながらそう言った。

「相手はどんな人?」
「小学校の時の二つ下の娘なんだ。今はアパレル業界で働いてる」
「もう付き合ってるの?」

涙の乾いてない目で僕を見つめながら問うてきた。僕は無言で頷いた。舞は両手で顔を覆った。その姿を見て、“ごめんな”と言って肩を抱き寄せると、

「そんな事しないでよ。忘れられなくなるじゃない」
そう言って僕の手を振り払い立ち上がった。

「あたし、貴士君の事本気で好きだった」

そう言うと踵を返し走り去って行った。僕は追いかけなかった。タバコに火を灯してしばらく公園の入り口にある外灯を見つめていた。外灯は小さな明るい光りを放っていた。



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