嶋野を確認した勇一は、「すみません遅れてしまって」とまずは詫びた。
嶋野は恐縮しながら、「とんでもないです。私の方こそ、仕事終わりで、お疲れのところを、時間を作っていただいて感謝してます。」と言って、深く頭を下げた。
…しばしの沈黙の後、嶋野がまず口を開いた。
「荒木さん、15年も音信不通だったこと、妹に代わって、お詫びします」
「いえ、そんな…まだ、20歳の頃ですし、由美も僕の嫌いなところがあったから、離れていったのかなあと…」と勇一は言ってみたものの、内心は、優しかった由美がなぜ?と思っていた。
「失礼ですが、荒木さんは、ご結婚されてますか?」
嶋野の質問に、なぜそんなことを?と思いつつも、勇一は正直に答えた。
「いえ。出会いも無かったからかも、また自分が鈍いせいかもしれませんが、予定もないです」
「そうですか…失礼なことを聞いてすみません。荒木さんのような人だったらもう結婚されていると思っていたので」
また、しばらくの沈黙のあと、嶋野が切り出した。
「荒木さん。もし違っていたらすみません」
「はい?」
「独身でいらっしゃる理由に、妹が原因の一つじゃありませんか?」
痛いところをつかれたと感じた。
と同時に否定しきれない自分がいる。
確かに勇一は、この15年の間、恋愛自体をやめていた。いや、そうすることも自ら閉ざしていた。
一般的に言ったら、「何を未練がましく、やってるんだ」と笑われて当然だ。
それくらい、勇一のなかで、由美は特別な存在だった。
そして、由美が自分から去っていった理由、今どうしているのか聞ける。
そうすることで、自分で、閉ざしていた、あらゆるものが開ける…
由美の兄である嶋野も、一度写真で見たことはあるが、ほとんど忘れかけていただけに、由美の近況が聞けることは、複雑な思いがあるものの嬉しかった。
そして、嶋野の次の一言を待った。