第二話【正と邪】
焼け果てた村の先、谷を挟んだ先にある家。そこにいたのは一人の少年。
黒い髪に海の様に透き通った蒼い瞳の少年は家の前で呆然と立ち尽くしていた。
「君は・・・? 他の人はどうしたんだい?」
バロンは少年を怯えさせぬ様になるべく優しい口調と声で話しかける。
「いない。」
一言。小さな声で、しかし確かに少年は言葉を発した。
「他に、お父さんとか、お母さんは?」
バロンが聞き返すと少年は首を横に振り、ゆっくり手を挙げバロンの後ろを指差して言った。
「何か来る。」
最初、バロンは少年の言葉の意味が理解できなかった。しかし直後に感じ取った禍々しい何かがバロンを突き動かした。
ウワォーン 狼の遠吠えのような音。
その主はすぐに現れた。
狼と類似する形、鋭く研ぎ澄まされた爪。赤く充血した眼。何より狼と決定的に違う二本の尻尾。
「こんな時にッ!」
「アレは・・・何?」
「君は魔物という物を知っていますか?」
少年は首を横に振る。
「魔物とはこの世界に存在する邪の象徴です。アレ等が当てはまります」
「倒せる?」
「もちろん。魔物が邪の象徴ならば僕らは正の象徴。倒す術は心得ています。」
そういい終えるとバロンは両の腿に下げた剣を構え、一歩前と踏み出した。