「…リ。…百合!」
楓の声に、百合はハッとなった。
「…ん?何?」
「『何?』じゃないでしょ!呼んでも全然返事しないし。一体どうしたの?」
楓の怒ったような、心配してるような態度に、百合は笑いながら言った。
「別に何でもないの。ごめんね、心配かけて」
そんなこといいのと、楓は手を振った。
「さっきの男の子のこと?」
「…うん」
百合は曖昧に頷いた。
(あのコ、紫苑にそっくりだった。でも…、紫苑は私のこと見ても、顔色変えなかった…)
本当のことを知りたいと思う自分と、このまま何事もなかったかのように振る舞いたい自分とが戦っていた。
「知ってるコなの?」
楓の疑問に百合の心臓はドキンと音をたてた。
「…元カレなの」
「…!!」
楓が息を鋭く飲む音が聞こえた。
「…そうだったの」
百合は小さく頷いた。
「でも、むこうは何も言わなかったわよね?」
そうなのよね、と百合は続けた。
「ねぇ、楓。これって、どういうことだと思う?」
「そう言われてもね…」
楓はうーんと唸りながら額に手をあてた。
「一番の可能性としては、あの人が百合、アンタのことを忘れてることだね」
「そうだよね」
百合はコクンと頷く。
「でも、私には引っかかることがある」
「?」
「付き合っていた人間のこと、簡単に忘れる、フツー」
「…確かに」
「でしょ?」
「でも、じゃあ何で…」
二人は頭を抱えた。
「もう一つは、他人の空似ってこと。でも、アンタはそう思うの?」
「ううん」
「でしょ?矛盾してんのよね」
二人の思考は、ここで途絶えた。
「ま、一番いいのは本人に名前を聞くことよね」
「うん。私もそう思う」
こうして二人は、紫苑似の男の子を探しに行った。