「これはこれは結城殿。
例の件で打ち合せに参られたのか?」
田代藩藩邸に顔を出した結城兵庫ノ介に、接待役の藩士が親しみのこもった表情を見せる。
幾度となく訪れるうちに、屋敷内の顔触れも次第に覚えていった兵庫ノ介である。
「小山内殿、実を申すとすぐさま用立てて頂きたい儀がござってな。
急ぎ手配お願いたてまつる」
「ほう? して、それがしの一存にて斡旋(あっせん)出来ようか?」
「いやなに、人の手配にあらず、これなる物を買いそろえて頂けばよろしい」
そう云った兵庫ノ介は、懐紙にしたためた目録を見せ、かくかくしかじかと簡単な説明を添えた。
「ふぅむ… お手前の奇計が見られ申す訳じゃな?」
「いや、正々堂々たるものでござるよ、小山内殿。
敵方は、二十を超える人数を立ち会いに供すと聞き及んでおります程に」
「そ、それは、…まことか!結城殿」
「さよう。 それがしには耳目が人様より余分にござってな。
卑怯相手には、奇策が正当と存ずる」
すっかり顔色を失った小山内佐兵衛に、ニヤリとしぶとい笑みをみせた兵庫ノ介は、軽い口調で辛辣な言葉を吐いていた。
結城兵庫ノ介の「余分の耳目」とは、云わずと知れた伊賀者、伍助じいに他ならない。