翔吾は少し時間が経って麻紀への憤りから冷めて自己嫌悪をしてしまっていた。
自分に原因があったから彼女にあんな行動をとってしまった。いや、とらせてしまった…。
今はもう彼女には新しい人が出来て会うことはもちろん、連絡を取ることなど出来ない。
自分自身で答えを出さなくてはいけない状況に翔吾は焦っていた。
時間が、大学が、刻一刻と彼から考える時間を奪っていく。が、彼の心は変わらない。
そんなことばかり考えていた翔吾に新しい出会いが起きた。亮である。
亮は神戸出身でかなり大人な同級生だ。
「翔吾は考え過ぎやで。おまえは根が優しいからちょっと女々しいぐらい人を思いやるからな。まあそこがいいところでもあるんやけどな」 「そうは言ってもすぐ忘れるのは難しいって。付き合ってた期間が長い分思い出が頭から離れないし」
「俺の一つの意見として聞いてな。人はそれぞれここまでは許せるとかここまでならやってもいいやろっていう個人的に決めた普通と思えるラインがあるはずと考えてるねん。だから、今回翔吾の元カノが浮気をしたのは話し合いで解決出来ないレベルの気持ちやったと思うねん。で、彼女にとって話し合いでは無理と判断して、そういう状況なら次の人(浮気相手)を作っても大丈夫という考えが常識化されて別れるに至ったと思うねん。で、翔吾は話し合いをすれば解決出来るという考えが基本やから意見の相違で全然違う方向に行ってしまったんやと思うで」
翔吾は亮の話を聞いているうちに心が少し楽になった気がした。
人は変わりゆく生き物である。と、何かの本で昔読んだ気がする。でも、自分の彼女だけは例外だと思いこんでいた自分自身の愚かさに腹がたった。と同時に哀しみと虚しさを覚えた…。人は何十年も、いや何年も愛し続けることは出来ないのか?
こんなことを考えていると自分の両親や祖父母が偉人のように思えてきた。自分はそう成ることが出来るのか?
ここで腐るのは簡単だが自分をこの機会によって大人へとステップアップさせようと思った。彼女への憤りはなくなったが、大人になればなるほど人に対して疑いの目を持って行かなければいけないこの社会が言葉では言い表し難い怪物に思えてきた…。