ラインホルト王国のとある泉に、男はいた。
男の名はゼルア。通称「白き狼」
王直属の三人の騎士の内、光の守護を任されている、言わば光の騎士である。
光の守護とは、すなわち表側の守護であり、侵略者の撃退や山賊、盗賊、海賊等の退治から、戦争では最前線の指揮もこなす。
しかしこのゼルアが実際にこれらの仕事を遂行することはほとんどと言っていいほど無い。
民や、事情を知らぬ一部の兵は、それほどこの国は平和なのだと勘違いしているが、西の空を覆うガルナ山脈や、東の海岸線と、その付近の洞窟等は全て、山賊や海賊の隠れ家である。
それに、隣国ザーレム国の欲深き領主、ジャバーがこの自然豊かな国を放っておくはずがない。
この“平和”は全て、三騎士の内の闇の騎士、サファンの功績によるものであった。
侵略者や賊の行動を事前に察知し、未然に“防ぐ”
これがサファンの仕事である。
サファンは、常に笑顔を絶やさず、穏やかで心優しい青年であるが、“影”であるサファンは他人との接触を禁じられており、存在しないものとされていた。
サファンの笑顔は、他人と関わることの出来ない哀れな自分に向けた唯一の優しさなのだ。