この暗闇の中、希望を失ったりパニックに陥ってもおかしくない。
美香は正直驚いていた。
耕太があきらめていないことに。
いつもクラスでバカをやっては笑われている耕太が、意外な根性を持っていたことに。
「おい、美香?」
耕太のいぶかしげな声でハッと我に帰り、美香はちょっとだけ恥ずかしくなった。
「とりあえずここから動きましょう。入り口を見つけなきゃ。」
パッと耕太の肩から手を放したが、その手をぎゅっとつかまれた。
「バカ、放したらはぐれるだろ。」
「……っ。」
答えない美香に、耕太は不意にいつもの調子を取り戻したのか、ガキっぽい笑い声を立てた。
「なんだよ、照れてんのか?あの天下の美香様が!」
「ばーか」と呟いて、美香は耕太の手をつねってやった。
不思議だった。さっきまでぬぐえない恐怖心がじわじわと体を蝕んでいたのに、もう何も怖くなかった。
手をつないだ二人は闇の中を歩き出した。
二人共無言だった。黙ったまま目を凝らして、闇のほどけそうな場所を探すことに集中した。しかし、歩いても歩いても景色は変わらない。動いているのかどうかさえわからない。
それからかなりの時間が過ぎた。
「……。」
「……。」
つないだ手がどちらからともなく汗ばんできた。二人共走ってもいないのに動悸がした。闇の中は冷たいわけでもなければ、当然暖かくもない。無温、無音……。自分たちの息づかいの音に潰されそうだった。
「……なぁ。」
「……何よ。」
「何かしゃべれよ。」
「…例えば?」
「『耕太、好き』とか。」
美香は思いっきり耕太の足を踏んづけた。
「痛ってえな!何すんだよ!!」
「それはこっちのセリフよ!ふざけてる暇あったら入り口探しなさいよ!!」
二人は騒ぐだけ騒いで互いを罵った後、不意に疲れて二人でしゃがみこんだ。
「おいおい……マジで出口ないわけ?」
「出口じゃなくて、入り口!今更帰れると思わないでよ。」
二人はもう一度立ち上がると、重い足でまた進み始めた。
だんだん、恐怖心と疲労感が二人を覆っていった。覇王が言っていたことは間違っていなかった、認識が甘かった、と耕太は後悔し始めていた。美香を見つけたらすぐ、例え嫌がってもその腕を引いて出口を目指すべきだったのだ。だが、もう遅い。出口はない。