マーカスはニヤリと笑い、女性に近付き、右手を女性の頬にあて、ゆっくり唇を近付けた。
タバコの煙が、唇と唇の間を通りすぎる。
「・・・お取り込み中に悪いが、そいつは男ですよ。マーカスさん」
「・・・!」
ベッドルームの扉の横に、赤い小さな光と煙。
右目の傷を隠すように、銀縁の細いフレームのメガネをかけた細身のスーツ姿の男が、壁に寄りかかりタバコを吹かしながら立っていた。
「だっ、誰だ!この部屋にどうやって入った!?」
「初めまして、マーカスさん。私は”グレイ・ヴィルソン”警察です」
グレイは警察のバッジケースをマーカスに向け見せる。
「あんな程度のボディーガードでは、あなたの命、簡単に奪うことが出来ますよ‥もっとも、その男の狙いは、そのマリア象ですが‥」
「おっ、男!?」
マーカスは驚き、女性から手を離した。
女性の口元が少し上がる。
「‥”グレイ”‥それが本名を捨てた、お前の今の名前か‥レメク」
グレイはタバコを足で踏み消し、背広の中に手を入れた。
「‥ああ、そうだよ。憂牙!!」
パァーン!!
鈍い銃声が女に向けられた。女は、後ろにあるベッドの反対側にヒラリと身を交わした。
女の後ろの窓には、65階からの夜景が輝いていた。
「相変わらず、血の気の多い奴だ‥」
長い黒髪のかつらをはずした。その下からは、銀色の綺麗な短髪が現れた。憂牙は赤いルージュを手でぬぐう。
「後ろは65階からの絶景。逃げ場は無いですよ、憂牙」
グレイは、持っている銃のトリガーをゆっくり引く。
「‥同じ顔‥」
ベッドの横で、両手で頭を抱えていたマーカスが、向き合う二人を見て言った。
「・・・チッ」
マーカスの言葉が気になったのか、一瞬、グレイの目線がマーカスに向けられた。
憂牙は、グレイの隙を突き、ドレスに隠されていた銃を抜き、マーカスに向け発砲した。
パァーン!
パァーン!
つづく